最高のものはこれから:未来のブレークスルーにおける集積回路の遺産
ジャック・キルビーによる IC の開発は、現代の革新の見えない基盤となり、私たちが今日頼りにしている技術、そして将来頼ることになる技術を支えています。
異常なバイタルを検出するウェアラブル デバイス、自動運転車、人のように動くロボット ― かつては不可能だったこれらのアイデアが、今や現実となり、私たちの想像を超える形で生活を形作っています。そして、これらはすべて一つのチップから始まりました。
チップ、つまり集積回路(IC)は、現代の電子機器の基本構成要素です。あまりにも IC は不可欠な存在となったため、その変革力を見過ごしたり、その始まりを忘れてしまったりすることさえあります。しかし、そのすべての始まりを築いたのは一人の革新者でした。1958 年、TI の技術者であったジャック・キルビーは電子工学の次の一歩について問いかけ、世界初の IC を開発しました。
ジャックのブレークスルーによって、電子機器はより手頃で、信頼性が高く、効率的で、コンパクトになり、それまでサイエンス フィクション映画の中にしか存在しなかった革新を実現し、さらに可能性の限界を押し広げました。この発明は、TI に今も受け継がれる考え方 ― 常に「次は何か?」を問い続ける姿勢 ― を生み出しました。
ここでは、エッジ AI、自動車、宇宙、ロボティクスといった分野において、当社がどのように次の進歩の基盤を築いてきたか、その代表的な例をご紹介します。
エッジ AI で日常の電子機器に力を与える
私たちが使う電子機器が一層複雑になる中、 エッジ人工知能(AI)は、電子機器をより応答性が高く、効率的で、安全なものにしています。エッジ AI により、自動車の車内モニタリングはシートベルトのリマインダー、子供の存在検知、侵入警告を可能にし、車内体験を向上させるとともに、進化する安全基準に対応できます。医療分野では、エッジ AI がバイタル サインを監視し、データを即座に処理してリアルタイムの健康インサイトを提供することで、早期介入とより良い治療結果を可能にします。
当社のエッジ AI ポートフォリオの起源は、意外にもずっと昔にさかのぼります。1978 年、TI は教育用玩具「Speak & Spell*」を発売しました。これは、ユーザーがキーボードでつづるための単語を音声で生成するものでした。今日では単純に思えるこの仕組みも、当時は画期的なものでした。「Speak & Spell」には、業界初のデジタル信号処理(DSP)ロジックを搭載したチップが導入されました。DSP は、数学を用いて現実世界の信号を処理し、効率的なリアルタイムのオンデバイス意思決定を可能にしました。現在では、DSP コアがチップに統合されていることで、デバイスは信号をローカルで処理でき、レーダー製品が位置を解析したり、ビジョン プロセッサがカメラや映像を解析したりすることが可能になっています。信号処理における当社の実績は、スケーラブルなハードウェア デバイス群を通じて、エッジ AI における革新を支え続けています。
自動車の安全性向上を推進する
道路における半導体の影響は計り知れません。現代の自動車は、数千個の IC に依存しています。センシング IC は車両の周囲からデータを収集し、環境を評価して、前方車両との距離が近すぎる場合にドライバーへ警告したり、平行駐車に必要な距離を測定したりします。自動化が進み安全基準が進化するにつれて、半導体の重要性はさらに高まり、ドライバーと乗員双方の安全を強化し、車内体験を向上させます。
半導体は何十年にもわたり、自動車の安全性を形作ってきました。例えばエアバッグは、衝撃や急激な速度変化を検知して膨張させるために IC を必要とします。1980 年代にはエアバッグが車両に標準装備されるようになり、自動車の安全性を再定義しました。この技術は今日も進化し続けています。
宇宙で新たな高みへ到達する
信頼性の高い半導体の必要性は、地上にとどまりません。宇宙では、衛星は放射線、極端な温度、そして空気や大気圧のない環境に耐えながら、数十年にわたり軌道を周回し続ける必要があります。これらの課題に対応するために、当社は宇宙用電子機器向けのプラスチック パッケージング規格である QML Class P(Qualified Manufacturers List Class P)を開発しました。この耐放射線パッケージは、衛星、探査機、その他の宇宙機において、電源管理、プロセッサ通信、高速 IC をサポートし、衛星により多くの部品を搭載してその能力を拡張することを可能にします。
宇宙について私たちが知っていることの多くは、IC がなければ実現できなかったでしょう。地球軌道に投入された最初の IC は TI 製で、1963 年に NASA のエクスプローラー 18 号衛星に搭載され、アポロ計画のために放射線データを収集しました。これは、宇宙探査と革新における数十年にわたる当社の歴史のほんの始まりにすぎません。アポロ 11 号の月面着陸に部品を供給することから、現在も稼働中の複数の探査機、衛星、望遠鏡、重要なミッションへの技術提供、さらには QML Class P のような規格の開発に至るまで、TI の半導体技術は、惑星や銀河についてさらに学ぶために欠かせない存在となっています。
新しい環境に適応するロボティクス
半導体は宇宙の果てまで技術を届ける一方で、身近な機械にも変革をもたらしています。現在のロボットは、より知的で精密になり、周囲への応答性も高まり、かつては手の届かなかった環境にも適応できるようになっています。モーター制御技術により、ヒューマノイド ロボットは物をつかむ動作から直立歩行に至るまで、人間を模倣した正確で精密かつ効率的な動きを実行できます。自律型ロボットに組み込まれたプロセッサは「セーフティ バブル」を形成し、さまざまな環境で人々の間で安全に作業し、周囲を移動できます。
IC は何十年にもわたり、ロボティクスの革新を推進してきました。20 世紀後半、マイクロプロセッサ制御とモーター駆動のロボットが、工場の組立および生産ラインに革命をもたらしました。そうした初期の進歩が、今日私たちが目にする精密かつ自律的なロボットの基盤を築いてきたのです。
次の未来を現実にする
当社はエアバッグや衛星、ロボットを作っているわけではありません。しかし、エッジ AI、自動車、宇宙、ロボティクスといった分野において、違いを生み出すお手伝いをしています。そして、そのすべては、当社が最初の IC を生み出したときに始まりました。
ジャック・キルビーのブレークスルーは、電子工学とその可能性を一変させました。私たちが彼の遺産に敬意を表す方法は、人々の生活、仕事、つながり方を向上させるブレークスルーを実現にすることです。TI のチップは、電子工学における次のステップの基盤を形成し、不可能を可能にし、複雑さをよりシンプルにし、私たちが日々頼りにしているデバイスをさらに身近なものにしています。そして今もなお、最高のものはこれからやってきます。
* テキサス インスツルメンツは 1978 年から 1992 年にかけて「Speak & Spell」を開発・販売しました。